『キングダム』の面白さは、史実という確固たる骨組みの上に、巧みなフィクションが織り交ぜられている点にある。司馬遷の『史記』をはじめとする歴史書を紐解くと、作中のキャラクターたちが辿る真の実像が見えてくる。
主人公である信(李信は、史実においては秦の将軍として記録に残る人物だ。しかし、漫画のように孤児から下僕を経て成り上がったという詳細な背景は創作であり、史書の記述の余白を原泰久が圧倒的なドラマツルギーで埋め尽くした結果と言える。また、後に始皇帝となる嬴政も、史実では冷酷で苛烈な絶対権力者としての側面が強く描かれがちだが、作中では「人類から戦争を無くす」という崇高な理念を掲げる人間味あふれるリーダーとして再解釈されている。
王騎に関しても、史実における「王齮」というわずかな記述をベースに、あのような異彩を放つ豪快かつチャーミングな大将軍像が構築された。歴史の事実を尊重しつつ、漫画としてのエンターテインメント性を極限まで高めたこの匙加減こそが、歴史好きをも唸らせる理由だ。