泥をこねて作られた粘土板に葦のペンを押し当てて刻まれたメソポタミア文明の楔形文字。ティグリス・ユーフラテス川の氾濫原から生まれたこの表記システムは、人類最古の会計帳簿として機能し始めた。幾何学的な尖った記号は、小麦の取引量や家畜の頭数を几帳面に記録している。
粘土板が乾燥して固まることで、記録は数千年の風雪に耐え抜いた。そこには単なる取引だけでなく、世界最古の文学『ギルガメシュ叙事詩』の壮大な物語から、隣人への細かな愚痴が綴られた粘土板の手紙まで保存されている。文字が行政の道具から人間の感情を運ぶ媒体へと進化した足跡が、そこにはっきりと刻まれている。