2012年8月、望月教授は自身のウェブサイト上に突如として4編、合計500ページを超える大作論文を公開しました。そこに記されていたのが、自身がゼロから作り上げた新理論「宇宙際タイヒミューラー理論(Inter-universal Teichmüller Theory, 略称:IUT理論)」です。
この理論の根本思想は、既存の数学の枠組みを根底から揺さぶるものでした。従来の数学では、すべての演算をひとつの「舞台(数学的な宇宙・集合論の枠組み)」の中で行います。しかし望月教授は、「足し算と掛け算が複雑に絡まり合うなら、複数の異なる数学の宇宙を用意し、それらの宇宙間を行き来させながら掛け算の構造だけを復元・比較すればよい」という発想に至りました。これが「宇宙際(インター・ユニバーサル)」という言葉の真意です。
あまりの抽象度の高さと造語の多さに、発表当初は世界中のトップ数学者でさえ「何が書かれているのか一行も理解できない」と匙を投げました。従来の代数幾何学の道具立てが通じないため、内容を精査できる専門家が世界に数人しか存在しなかったのです。
望月教授が所属する京都大学数理解析研究所が編集する国際学術誌『PRIMS(数理解析研究所紀要)』に論文が投稿された後、8年近くに及ぶ異例の長期査読が行われました。そして2026年4月に査読通過が発表され、2026年3月に特別号として正式出版。形式上、ABC予想の証明論文は学術的な関門を突破したことになりました。