西田の真骨頂は、何と言っても「日常の皮をかぶった非日常」を演じ分ける振り幅の広さにある。優しく穏やかな母親の顔を見せたかと思えば、次の作品では冷徹なエリート官僚や、心の奥底に暗い欲望を秘めた屈折した女性を見事に演じ切る。
一見するとごく普通の主婦に見えるキャラクターが、物語の進行とともにふとした拍子に見せる「人間の怖さ」や「哀愁」。そのグラデーションの描き方が極めて自然であるため、観客は気づかぬうちに彼女が仕掛けた感情の罠にはまってしまう。この緻密な計算を感じさせないナチュラルな演技アプローチこそ、彼女が長年にわたり業界のトップランナーであり続ける最大の理由だろう。