「パワー(長打力)」と「スピード(走力)」は、筋肉量や疲労度の観点から両立が極めて難しいとされてきました。歴代の強打者たちが挑みながらも「40-40」が限界と見なされていた壁を、なぜ大谷翔平選手は易々と突破できたのでしょうか。取材データと動作解析から導き出される理由は、大きく分けて3点存在します。
第一に、右肘手術のリハビリ期間を逆手に取った「打者・走者へのエネルギー集中」です。登板前後のコンディション調整や投球練習に割いていたリソースを、打撃フォームの微調整と走塁技術の向上に全振りできたことが挙げられます。走塁コーチのディノ・エベル氏らとの綿密な映像分析により、相手投手のクセや牽制パターンの解析精度が劇的に向上しました。
第二に、ピッチクロック(投球間隔制限)とベース拡大というMLBのルール改定への適応です。新ルールによって走者有利な環境が整ったとはいえ、走れば走るほど下半身への負担は増大し、本塁打を打つためのスイングスピード低下を招くのが通常です。しかし大谷選手は、トップスピード(秒速約8.5メートル超)を維持しながらも、スライディング時の衝撃を最小限に抑える技術を確立し、怪我のリスクを徹底的にコントロールしました。
第三に、逆方向へのアプローチ変化と打球速度の維持です。50号本塁打が見事なレフト方向への流し打ちであったように、外角低めのボールに対して無理に引っ張らず、圧倒的なスイングスピード(平均時速140キロ以上)を活かして逆方向へスタンドインさせる技術が、シーズン終盤のプレッシャー下でも安定した長打率を生み出し続けました。