『大工と鬼六』のプロットは、民俗学や口承文芸学において国際的に広く知られる「名前当て説話(ATU 500型:Rumpelstilzchen型)」に分類されます。グリム童話の名作『ルンペルシュティルツヒェン』やイギリスの『トム・ティット・トット』と構造を共有していますが、日本特有の文化的背景が色濃く反映されています。
古代日本において、本名(実名)は個人の魂そのものと同一視される「言霊(ことだま)」の根幹でした。相手の隠された真の名を知ることは、その存在の支配権を握り、霊力を無力化することを意味します。大工が「鬼六」と叫んだ瞬間、鬼が一切の抵抗力を失って消滅したのは、呪術的に完全な支配・屈服を余儀なくされたためです。
さらに民俗学者らの研究によると、鬼が「目玉」を要求する設定は、古代の製鉄集団(タタラ吹き)に由来すると指摘されています。鉄を溶かす炉の炎を片目で長時間見つめ続ける職人は、職業病として視力を失い「一本だたら(片目の妖怪)」の伝承へと転化していきました。川に鉄製の頑丈な橋脚を打ち込む高い技術を持った製鉄・土木集団の影が、川の怪異「鬼六」として語り継がれた歴史の痕跡がここにあります。