当時、捜査の陣頭指揮を執ったのは「カミソリ八兵衛」の異名を持つ名刑事、平塚八兵衛だった。警視庁史上最強の叩き上げとして数々の難事件を解決に導いた彼は、少年S真犯人説に対して一貫して懐疑的な立場を突き通した。「少年Sには単独でこれほど緻密な犯罪を遂行する知性と度胸はない」と分析し、別ルートの捜査を強調したのだ。
しかし、この判断が警視庁内部で激しい対立を生む。捜査一課の一部や現場の捜査員たちは、少年Sこそが白バイ隊員の知識を背景に持つ唯一の容疑者だと確信していた。叩き上げの名刑事が見せた固執と、組織内の軋轢。この見解の齟齬が、初期捜査の貴重なタイムリミットを浪費させる結果となったことは否めない。