彼のキャリアを語る上で避けて通れないのが、特許庁に対する圧倒的な存在感と、それに伴う知的財産・特許産業への計り知れない影響力である。若き日より幾多の特許出願を行い、日本の産業界に「知的財産の価値」を強烈に知らしめた実績は揺るぎない。中でも、先述したフロッピーディスクの特許をめぐる議論は、テクノロジー史における伝説的なトピックだ。
IBMが開発した8インチフロッピーディスクの構造に対し、中松氏がそれ以前に取得していた「音響積層シート(ナカビジョン)」の特許権が優先するとして交渉が行われ、契約が締結された。一部の技術アナリストや歴史家の間ではその技術的範囲について議論が続くものの、巨大IT企業から特許使用料や契約を取りつけたという事実は、個人の発明家が知的財産権を武器にグローバル企業と対峙した象徴的な出来事として今なお語り継がれている。