オーストラリアの時差問題において、ガイドブックの小さな注記で見落とされがちなのが、夏期における「州境越えの1時間トラップ」です。特にトラブルが多発する危険地帯として知られるのが、一大観光地であるゴールドコースト周辺です。
ゴールドコースト空港(クーランガッタ空港)は、クイーンズランド州(サマータイムなし)とニューサウスウェールズ州(サマータイムあり)の境界線上に建設されています。滑走路やターミナルの一部が州境をまたいでおり、空港の北側はクイーンズランド時間、南側へ一歩足を踏み入れるとニューサウスウェールズ時間へと切り替わります。
例えば、夏場の12月にゴールドコーストを拠点にしつつ、車で約45分南下して人気のリゾート地バイロンベイ(NSW州)へ日帰り観光に出かけたとします。バイロンベイ現地でカフェに入り、時計を見て「まだ夕方16時だから17時半のフライトに余裕で間に合う」と空港へ戻った瞬間、空港(QLD州時間)ではすでにチェックインカウンターが閉鎖されていたという悲劇が実際に報告されています。移動しただけで無自覚のうちに1時間を失っていたという事態が発生するのです。
さらに現代特有の問題として、スマートフォンの自動時刻補正(GPS・基地局通信)の挙動が挙げられます。州境付近のホテルやハイウェイでは、スマホが拾う電波基地局がQLD州側とNSW州側で頻繁に入れ替わります。その結果、スマホの時計が勝手に1時間進んだり戻ったりを繰り返し、設定していたアラームが1時間遅れて鳴り、早朝のツアー集合に大遅刻するといったトラブルが毎年現地で多発しています。州境付近を移動する際は、スマホの「日付と時刻の自動設定」をオフにし、滞在拠点の手動時刻に固定しておくことが現場の鉄則です。
また、日本と現地を結ぶオンラインビジネスでも注意が必要です。シドニー支社とブリスベン支社を同時に交えたウェブ会議をセッティングする際、夏期には「日本時間10:00=ブリスベン11:00=シドニー12:00」という三角関係が生じます。社内カレンダーのタイムゾーン設定を誤り、誰か1人が会議に現れないというミスは、現地日系企業のオフィスで日常茶飯事となっています。