ネット上の防災掲示板や知恵袋などで散見される最大の誤解が、「自分は火山の近くに住んでいないし、登山もしないから関係ない」という思い込みです。しかし、火山災害の本質は火口周辺の溶岩流や火砕流だけに留まりません。
最大の広域リスクは「火山灰(降灰)」です。火山灰は木や紙を燃やした灰とは異なり、マグマが急冷して粉砕された「ガラス質の微粒子や鉱物の破片」です。硬く、電気を通しやすく、水を含むとセメント状に固まる特性を持っています。
もし富士山が宝永噴火規模の噴火を起こした場合、偏西風に乗った火山灰は数時間で首都圏全域に降り注ぎます。わずか数ミリの降灰で鉄道は給電トラブルや車輪のスリップにより運行停止に追い込まれ、道路は視界不良とスリップ事故で完全麻痺。雨が降れば送電線の絶縁破壊(がいしフラッシュオーバー)により大規模停電が発生し、浄水場のろ過機能停止によって水道インフラも途絶します。火口から100km離れた大都市であっても、都市機能は瞬時に壊滅的な麻痺状態へと追い込まれるのです。
さらに、人間心理に潜む「正常性バイアス」も被害を拡大させる元凶です。2014年の御嶽山噴火や2018年の草津白根山本白根火口の噴火では、事前の明確な前兆現象が極めて乏しい水蒸気噴火が発生し、多くの人命が奪われました。「煙が出ているがいつものことだろう」「警報が出ていないから大丈夫」という過信が、避難行動の致命的な遅れを招きます。自然災害において「想定外」を言い訳にできない現実を、過去の惨禍は残酷なまでに証明しています。