「服についた絵の具に気づいたときには、すでに半日以上経過して完全に固まっていた」という状況でも、落胆する必要はありません。乾燥して硬化してしまった絵の具であっても、それぞれのバインダーの化学的性質を逆手に取ったアプローチを行えば、繊維から剥離させることが可能です。重要なのは、付着している絵の具の種類を見極めることです。
水彩絵の具の場合、時間が経過して水分が失われていても、バインダーであるアラビアゴム自体は水溶性の性質を失っていません。乾いた水彩絵の具に対しては、40℃前後のぬるま湯を使ってバインダーをゆっくりと再水和させ、繊維を緩める作業から始めます。ここでいきなり生地を強く揉み込むのではなく、まずはぬるま湯に浸してバインダーをふやかし、界面活性剤の浸透を助ける下地を作ることが決定的な差を生みます。
一方、完全に硬化したアクリル絵の具に対してぬるま湯だけで挑むのは得策ではありません。形成されたアクリルポリマーの強固な結合を解くには、樹脂を軟化・溶解させる有機溶剤のアプローチが必要となります。そこで威力を発揮するのが、どこの家庭にもある消毒用エタノールやクレンジングオイルです。エタノールが持つアクリル樹脂の膨潤作用を利用することで、プラスチック化して繊維に固着した膜をボロボロと崩し、顔料ごと浮き上がらせることができます。