世界の公的機関が「United Kingdom」と呼ぶ国を、なぜ日本人は頑なに「イギリス」と呼び続けているのでしょうか。その背景には、16世紀の戦国末期から江戸時代初期にかけて始まった南蛮貿易の歴史が深く関わっています。
当時、日本に最初に来航した西洋人はポルトガル人やスペイン人でした。ポルトガル語で「イングランドの/イングランド人」を意味する単語は「Inglês(イングレス)」であり、続いて来航したオランダ商人のオランダ語では「Engelsch(エンゲルシュ)」と呼ばれていました。当時の日本人はこれらの言葉を耳で聞き取り、漢字で「英吉利」やカタカナで「エゲレス」と当て字をして記録しました。
鎖国期から幕末にかけてこの「エゲレス」という発音が徐々に転訛し、「イギリス」という呼び名が定着していきました。つまり、日本人は「イングランド」を指すポルトガル語やオランダ語の発音を国全体の呼び名として借用してしまったのです。明治以降、日本外務省も通称として「英国」や「イギリス」を採用し続けたため、国内では疑われることなく100年以上使い続けられてきました。
しかし、明治維新から現代に至るまで国内で定着した「イギリス」という言葉の存在こそが、日本人が海外へ出た際に「国名=England」と直訳してしまう最大の元凶となっています。