アルミニウムや鉄も同じ「金属」であるにもかかわらず、一体なぜ銅だけがこれほど突出した熱伝導率を発現できるのか。この疑問に対する答えは、原子内部の電子軌道とミクロな物理現象の中に隠されています。
物質が熱を伝えるルートには、原子の格子振動が波となって伝播する「フォノン伝導」と、金属内を自由に動く電子がエネルギーを運ぶ「電子伝導」の2種類があります。セラミックスやプラスチックなどの絶縁体はフォノンのみで熱を伝えますが、金属においては熱移動の大部分を自由電子が担っています。
この事実を物理学的に裏付けているのが、19世紀に発見された「ウィーデマン・フランツの法則」です。良導体である金属においては、電気伝導率と熱伝導率の比が絶対温度に比例し、金属の種類によらずほぼ一定の値をとることが知られています。すなわち、電気を極めて通しやすい金属は、原理的に熱をも極めて速く運ぶ宿命にあります。
銅の原子番号は29であり、電子配置は最外殻の4s軌道に電子が1個だけ収まった非常に動きやすい構造をとっています。さらに銅の結晶構造は原子が規則正しく最密充填された「面心立方格子(FCC)」を形成しており、結晶格子内の歪みや欠陥が極めて少ない特徴を持ちます。この整然とした金属格子の中を、豊富な自由電子が何者にも邪魔されずに極めて長い平均自由行程を保ったまま疾走できるため、熱エネルギーが一瞬で反対側へと運び去られます。
対照的な例がステンレス鋼(SUS304)です。ステンレスは鉄にクロムやニッケルを大量に混ぜ合わせた合金構造をしています。鉄の格子の中に異なる原子半径の元素が不規則に入り込むことで結晶構造が歪み、電子が前進しようとするたびに激しく散乱されてしまいます。この「電子散乱」が激化する結果、ステンレスの熱伝導率は16 W/(m·K)前後まで叩き落とされ、銅の25分の1という極端な断熱性を帯びることになるのです。