日本におけるアドラーブームの起爆剤となったのは、2013年にダイヤモンド社から刊行された哲学者・岸見一郎氏とライター・古賀史健氏の共著『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』である。青年と哲学者の対話篇という古代ギリシャ哲学を模した形式で書かれた同書は、従来の「他者に好かれるための処世術」を真っ向から否定し、単なる自己啓発の枠を大きく飛び越えて社会現象を巻き起こした。
その影響力は書籍の枠に留まらない。後にドラマ『嫌われる勇気』として映像化されたほか、Amazon Kindleなどの電子書籍プラットフォームやAudibleによる音声コンテンツを通じて、活字離れが叫ばれる若い世代や多忙なビジネスパーソンへ絶え間なく浸透し続けている。発売から年月を経た今なおロングセラーを維持している事実は、対人関係の軋轢に苦しむ現代人が、一時的な慰めではなく本質的な「自立の哲学」を渇望している証拠に他ならない。