県外の旅行者が最も頻繁に抱く疑問が、「群馬のおきりこみと山梨のほうとうは何が違うのか」という点です。両者とも「幅広のうどんを生麺のまま野菜と煮込む」という外観上の共通点を持つため同一視されやすいものの、調理科学および食文化の観点から比較すると、その設計思想には明確な境界線が存在します。
決定的な差異の第一は「主役となる具材」です。山梨のほうとうは、煮崩れた「かぼちゃ(南瓜)」が出汁に溶け込み、甘みと濃厚なとろみを形成することが絶対のアイデンティティとされます。一方、群馬のおきりこみにおける主役は、大根、人参、ごぼう、里芋、長ネギ、椎茸や舞茸といった「上州の大地が育む土くさい根菜類とキノコ」です。かぼちゃが入るケースも皆無ではありませんが、あくまで数ある季節野菜の選択肢の一つに過ぎず、必須条件ではありません。
第二の差異は「スープの調合」にあります。ほうとうの味付けがほぼ例外なく甲州味噌を中心とした「味噌仕立て」であるのに対し、おきりこみは「醤油味」が極めて強力な勢力を誇ります。利根川水系の物流と醤油醸造文化が栄えた前橋・高崎・太田などの平野部ではキレのある醤油味が主流であり、山間部で味噌味が好まれるなど、一杯の丼の中で地域ごとのグラデーションが形成されています。