刑務所に入らずに済むとはいえ、執行猶予期間の日常生活と制限は決して看過できるものではありません。一般社会で普通に生活しているように見えても、キャリアや私生活には深刻な影を落とします。
多くの当事者が直面するのが、執行猶予中の就職や仕事への影響です。民間企業への就職活動において、履歴書に「賞罰欄」がある場合、確定した判決を偽って「なし」と書けば経歴詐称に該当します。入社後に発覚すれば就業規則違反として懲戒解雇の正当な事由になり得ます。近年は賞罰欄のない履歴書フォーマットも普及していますが、面接等で直接犯罪歴を問われた際に虚偽の回答をすることは許されません。
さらに深刻なのが国家資格や特定の職業における「欠格事由」です。拘禁刑(旧懲役・禁錮)以上の刑に処せられた場合、執行猶予中であっても以下の職種は資格を喪失、あるいは営業許可を取り消されます。
- 公務員全般:国家公務員法・地方公務員法に基づき当然失職(猶予期間が終わるまで再受験不可)。
- 医療・福祉系:医師、歯科医師、薬剤師、看護師(行政処分による免許取消や業務停止)。
- 法律・会計系:弁護士、公認会計士、税理士、司法書士(登録取消・資格喪失)。
- 教育・金融・不動産:教員免許の失効、警備員、宅地建物取引士、建設業の役員登録の制限。
また、プライベートにおける大きな壁となるのが執行猶予中の海外旅行とパスポート制限です。日本の旅券法13条1項3号には、「禁錮以上の刑に処せられ、その執行を受けることがなくなるまでの者」に対して外務大臣が旅券の発行を制限・拒否できる旨が明記されています。新規発行を申請する際は「渡航事情説明書」の提出を求められ、外務省による個別審査を受ける必要があります。
仮にパスポートを既に所持していたとしても、渡航先の入国審査を突破できるとは限りません。例えばアメリカへの渡航時に利用される「ESTA(電子渡航認証)」では、「これまでに重大な危害や損害を与えた犯罪で逮捕または有罪判決を受けたことがあるか」という質問項目が存在します。これに該当すればESTAは即座に却下され、米国大使館で厳格なビザ面接を受けなければ渡航は叶いません。入国審査で虚偽申告を行えば、不法入国として拘束・強制送還されるリスクを背負うことになります。