美容室と理容室を分かつ最大の要因は、それぞれの根拠法である美容師法(昭和32年法律第163号)と理容師法(昭和22年法律第235号)の条文に刻まれた「目的」の定義にあります。
法律上、理容とは「頭髪の刈込、顔剃り等の方法により、容姿を整えること」と定義され、美容は「パーマネントウェーブ、結髪、化粧等の方法により、容姿を美しくすること」と定められています。一見すると言葉のあやのように思えますが、公衆衛生と技能の観点から行政が定めたこの定義が、現場のサービス内容を決定づけています。
象徴的な違いが、顔剃りシェービングの可否です。国家資格免許の業務範囲において、刃物を皮膚に直接当てて産毛や髭を剃り落とす行為は、血液感染症などの公衆衛生リスクを管理する観点から理容師にのみ原則として認められています。美容室においてカミソリを用いた本格的なシェービングを行うことは法律で禁じられており、施術の一環として認められるのは「メイクの仕上げとして電気シェーバーなどでわずかに産毛を払う」といった軽微な範囲に限定されています。
かつてはパーマとカラーの施術基準にも厳格な制限が存在しました。昭和期から平成中期にかけては、旧厚生省の通達により「理容室ではパーマ液のみを用いた施術(単独パーマ)を行ってはならず、刈り込みと併せて行うこと」「美容室では男性へのカット単独の施術は認められない」といった性別や施術内容による実質的な規制が敷かれていました。これらは規制改革要望を受けて平成27年(2015年)に厚生労働省通達によって撤廃され、現在では男女問わずどちらの店舗でもパーマやカットを単独で受けることが可能になっていますが、顔剃りという決定的な施術権限の壁は今なお厳然と保たれています。