ドラマ『1リットルの涙』であらすじを追った視聴者の多くが息をのんだのは、活発だった高校生が次第に歩行困難となり、言葉を失い、やがて寝たきりになっていく容赦のない病の進行でした。この病気の正式名称は「脊髄小脳変性症(SCD:SpinoCerebellar Degeneration)」。主に後頭部にある小脳や、首から背骨を通る脊髄の神経細胞が徐々に変性・脱落し、運動のコントロールが失われていく神経難病の総称です。
小脳は、手足をスムーズに動かす、バランスを保つ、滑らかに発音するといった「運動の協調性」を司る司令塔です。この部位に障害が生じることで、筋力そのものは保たれているにもかかわらず、自分の意図通りに身体をコントロールできなくなる「運動失調」という状態に陥ります。
神経内科の専門医がこの病気の最も残酷な側面として挙げるのが、「運動機能が急速に低下していく過程でも、大脳の思考力・判断力・記憶力は極めて明瞭に保たれる」という点です。自分ができなくなっていくこと、失われていく日常を、研ぎ澄まされた意識の中で自覚し続けなければならない心理的苦痛は計り知れません。木藤亜也さんが手記の中で「どうして病気は私を選んだのだろう」と問い続けた背景には、この病気特有の過酷な医学的特徴が存在していました。