日本における自伝・犯罪手記の歴史は古い。過去にも大久保清や麻原彰晃、連続殺人犯の手記が世に出た例はある。しかし、『絶歌』が出版業界に与えたショックは格別だった。それは、かつて未成年であった重大犯罪者が、更生後に実名を出さず匿名のまま出版し、多額の印税収入を得たという前例を作ってしまったからに他ならない。
この一件以降、大手出版社は犯罪手記の企画に対して極めて慎重な姿勢をとるようになった。商業的成功が見込める一方で、コンプライアンス上のリスクや社会的信用の失墜というリスクが大きすぎるからだ。結果として『絶歌』は、出版倫理の境界線を決定的に塗り替えるエポックメイクな一冊となり、日本の出版界に重い倫理的踏み絵を迫ることとなった。