事業が急拡大する一方で、予期せぬリスクが太平洋の向こうから忍び寄っていた。米国本家であるTully's Coffee Corporationの経営状況が悪化の兆しを見せ始めたのだ。松田氏は本家の破綻に巻き込まれてブランドが消滅することを防ぐため、知財戦略として日本国内における「タリーズ」商標の完全取得に動く。
そして2006年、緑茶市場の絶対的リーダーである株式会社伊藤園がタリーズコーヒージャパン株式会社を友好的に買収・子会社化するという電撃的な発表が行われた。このディールは当時、日本経済新聞をはじめとする経済メディアを大きく揺るがした。
伊藤園の強固な流通ネットワークと潤沢な資金力を手に入れたことで、タリーズは缶コーヒーやチルド飲料といったリテール市場へ一気に販路を拡大。店舗のカフェ事業とパッケージ飲料の二刀流という盤石の収益基盤を確立し、日本市場での永続的な成功を決定づけた。ブランドを守り抜き、さらなる飛躍へ導くための戦略的売却――これこそが、松田氏が下した最大のファインプレーであった。