業界のトップ企業が新興企業に敗北する最大の理由は、経営陣の無能さや怠慢ではありません。むしろ「極めて合理的で正しい経営判断をしていたこと」そのものが致命傷となります。これこそが、クリステンセン教授が名付けた「イノベーションのジレンマ」の核心です。
大企業には、利益をもたらしてくれる大切な既存顧客がいます。経営陣が顧客の要望に応えようとすれば、高収益が見込めるハイエンド製品の開発に経営資源を集中させるのが組織として最も合理的な判断です。その結果、利益率が低く市場規模も未知数な初期の破壊的技術への投資は後回しにされます。
さらに大企業社内では、高い売上目標を課されている優秀な事業部長ほど、小さなニッチ市場よりも既存の巨大市場を好みます。こうして既存顧客への過度な適応と合理的な資源配分が進む間に、新興勢力は低価格市場で着実に実力を蓄え、気づいたときには大手企業が追いつけないスピードで上位市場へ侵食してくるのです。