古代ローマ帝国を揺るがした「アントニヌスの疫病」の正体とは、いったい何だったのか。皇帝マルクス・アウレリウスの時代に猛威を振るったこの感染症について、かつては諸説が乱立していた。しかし、現代の分子生物学や病原体ゲノム解析の進展によって、その真実と帝国衰退をもたらした歴史的影響が最新研究から明かされつつある。
研究者の間では長年、麻疹(はしか)か天然痘の初期変異株であると考えられてきた。最近の古代遺骨から採取された病原体サンプルの分析によると、致死率が極めて高く、皮膚に激しい発疹や潰瘍を引き起こす高度に変異した天然痘ウイルスの一種だった可能性が最有力視されている。帝国内の人口の10%から15%、地域によっては30%以上の住民が命を落としたと推計されており、まさに文明の存続を脅かす規模の惨禍だったのだ。