競技生活に終止符を打ったあの日の選択に、後悔の念は一切ないという。連覇を重ねた世界選手権、世界中からの期待を背負って挑んだ東京オリンピック。勝利の歓喜も、あと一歩届かなかった悔しさも、すべてを注ぎ込んだからこそ辿り着いた境地がある。当時の胸中を振り返ると、勝負の世界で戦い続けることの過酷さと同時に、自分自身と徹底的に向き合い続けた日々の愛おしさが込み上げてくるという。畳の上で表現してきた「形」は、ただの動作の組み合わせではなく、自らの生き様そのものだったのだ。
現在、彼女が注力している活動の一つが、海外での空手普及セミナーやワークショップだ。ヨーロッパや北米、アジア各国から招聘され、現地のアスリートや指導者たちに直接指導を行っている。言葉の壁を超え、体の使い方や眼力、さらには呼吸法に至るまで、細部にわたる指導は世界中で大きな反響を呼んでいる。単に「勝ち方」を教えるのではなく、礼節や相手への敬意といった日本伝統の武道精神を伝えることに、彼女は深い喜びを見出している。