物語の大きな転換点となったのが、寺島伸夫(ノブ)と小松奈々(ハチ)の儚くも美しい恋物語だ。実家の老舗旅館を継ぐ約束を捨ててまで上京し、音楽への情熱を燃やしていたノブ。傷つきやすいハチを包み込むような彼の温もりは、彼女にとって救いそのものだった。しかし、二人の幸せな日々はあまりにも唐突に終わりを迎える。
ハチの妊娠、そして巧の介入。ノブはハチへの深い愛ゆえに、彼女の選択を拒絶することができなかった。自分の経済的無力さと、彼女の未来を天秤にかけた結果、自ら引き下がる道を選んでしまう。愛しているからこそ身を引くという決断は、彼の中に消えない傷を残した。多くの読者が涙したこの悲劇は、若さゆえの純粋さと厳酷な現実が交錯した、まさに痛切な人間ドラマの頂点と言えるだろう。