「花はたくさん咲くのに実が1本も成らない」というトラブルの裏には、ウリ科植物特有の生殖生理とホルモンバランスの仕組みが隠されています。ヘチマは1つの株に雄花(おばな)と雌花(めばな)が別々に咲く「雌雄異花(しゆういか)」の植物です。
実がつかない決定的な原因の第1位は、親づるの摘芯を行わずに一本立ちのまま伸ばしてしまうことです。ヘチマの主枝(親づる)には雄花ばかりが集中し、実を結ぶ雌花は、主枝から横に伸びる「子づる」や「孫づる」に多く着生する性質を持っています。親づるを放置すると、株の栄養が主枝の伸長だけに消費され、雌花がほとんど現れません。
親づるの本葉が5〜6枚(草丈30〜40cm程度)に達した段階で、頂点の成長点を清潔なハサミで切り落とす「摘芯(てきしん)」を実施します。これにより成長ホルモンの流れが変わり、葉の付け根から元気な子づるが複数本勢いよく伸び出します。子づるがネット全体に広がったら、子づるの先端も軽く止めることで孫づるが発生し、雌花の着生数が飛躍的に増加します。
実がつかない第2の原因は、受粉の失敗です。特に都市部のベランダや高層階では、ハチやアブなどの媒介昆虫が飛来しにくく、自然受粉が期待できません。確実に着果させるためには、人の手による「人工受粉」が不可欠です。
見分け方は極めて明快です。花首が細く花粉を出す花弁の中心に花粉塊があるのが雄花、花の根元に小さなヘチマのミニチュアのような「ふくらみ(子房)」がついているのが雌花です。ヘチマの花粉は朝早くに最も活性が高まるため、開花当日の朝8時〜9時頃までに作業を完了させます。咲きたての雄花を摘み取って花びらを取り除き、中央の雄しべを露出させ、雌花の柱頭(中心部)に優しくトントンと花粉を塗り付けます。受粉が成功すれば、数日で子房がぷっくりと膨らみ、急速に肥大化していきます。