司法の現場において、鉄道事故の賠償責任はどのように判断されてきたのでしょうか。過去の鉄道会社損害賠償の判例として広く知られるのが、2016年の最高裁判決(JR東海・愛知県認知症男性列車事故訴訟)です。この裁判では、徘徊中に列車事故に遭った認知症男性の遺族に対し、最高裁は「同居の妻や長男は直ちに法定の監督義務者にはあたらない」として、鉄道会社側の請求を全面的に退けました。
また、実務上では飛び込み自殺賠償金が請求されないケースや、大幅に減額される事例も少なくありません。鉄道会社側が請求を見送る主な人身事故損害賠償の免除理由・背景には以下のような事情が存在します。
一つは、故人にめぼしい遺産がなく、遺族全員が相続放棄を行うことが明白な場合です。回収の見込みがない相手に対して多額の弁護士費用と訴訟コストをかけることは、企業経営の観点から合理的ではありません。さらに、精神的に追い詰められた遺族に対して強硬な取り立てを行うことが、企業のブランドイメージ失墜につながるリスクも考慮されます。結果として、請求書が形式的に送付されるにとどまるか、あるいは遺産分割の状況を見極めた上で現実的な和解金(数十万〜数百万円)で合意されるケースが少なくないのが現場の実情です。