「DOPE」という単語の起源を遡ると、19世紀初頭のオランダ語で「浸す」「濃厚なソース」を意味する「doop(ドープ)」に突き当たります。アメリカへ移民が持ち込んだこの言葉は、粘度の高い液体全般を指す表現として使われていましたが、1880年代後半のアヘン窟(アヘン吸引所)において、熱してドロドロになったアヘンエキスを「dope」と呼ぶ隠語として定着していきました。
20世紀に入ると、意味はヘロインや大麻などの麻薬全般へと拡大します。さらに競走馬に興奮剤を注射して不正に走らせる行為も「doping(ドーピング)」と呼ばれるようになり、スポーツ界における禁止薬物使用の語源となりました。本来のDOPEは、極めて危険で非合法な響きを持つ単語だったのです。
この言葉に決定的な転換点をもたらしたのが、1980年代初頭のニューヨーク・サウスブロンクスで爆発したヒップホップカルチャーでした。過酷なストリート環境に生きたブラックコミュニティの若者たちは、既存の支配的な言語規範を覆す言語ゲームを展開しました。「Bad(悪い)」を「最高にイカしてる」という意味で使ったマイケル・ジャクソンの名曲のように、彼らは「麻薬のように強い中毒性があり、一度触れたら抜け出せないほどヤバい」という究極の比喩としてDOPEを再定義したのです。この意味の逆転(Inversion)によって、DOPEはストリートのリアルを体現する最高峰の賛辞へと生まれ変わりました。