東山魁夷の代名詞とも言える「東山ブルー」。その青は、単一の絵の具で平坦に塗られたものではありません。鉱物を砕いて作られる高価な天然岩絵の具(群青、緑青、白群など)を何層にも塗り重ね、粒子ごとの乱反射を生み出すことで、見る角度や光線によって無限の奥行きと透明感を放ちます。
1950年に発表された『道』は、早朝の青森県種差海岸の牧場に伸びる一本の未舗装路をモチーフにした、魁夷のキャリアにおける最大の転換点です。前方へ一直線に伸びる道には、歩行者や車などの点景が一切描かれていません。中央を走る白い一本の道と左右に広がる緑陰、そして静まり返る青空。この極限まで削ぎ落とされた構図について、魁夷自身は自著『風景との対話』の中で次のように述懐しています。
「私はただ、前方へ進むことだけを考えていた。道は私の人生そのものであり、絶望の淵から再び歩み出そうとする祈りであった」
また、1982年の名作『緑響く』では、深い木々のエメラルドグリーンと水面に映るコバルトブルーの静水、そのほとりを歩む一頭の白い馬が幻想的な調べを奏でます。この『白馬の森』を思わせる白い馬は、実景に存在したものではなく、画家が心の中に宿した「無垢な魂の象徴」でした。色彩心理学において、青は内省と鎮静をもたらし、緑は生命の再生を促します。鑑賞者の視線を静寂の奥底へと誘うこのカラーパレットこそが、半世紀を超えて人々を癒やし続ける最大の要因です。