劇場に足を踏み入れると、独特の緊迫感が漂っている。九代目市川中車としての名跡を背負い、彼が本格的に立つ歌舞伎の舞台は、今や満員の観客で埋め尽くされている。松竹株式会社が企図する伝統芸能の継承と革新において、彼の存在は極めて重要なピースとなった。稽古場での彼は、若手以上に汗を流し、一挙手一投足に神経を研ぎ澄ませているという。
「舞台袖で見せる真剣な表情は、鬼気迫るものがある」。歌舞伎関係者はそう語る。一時は芸能界での立ち位置が危ぶまれたものの、伝統芸能への真摯な向き合い方が、歌舞伎ファンの心を少しずつ解きほぐしていった。話題の舞台や映画の舞台裏では、共演者やスタッフへの細やかな気配りも欠かさない。妥協を許さない演技への執念と、作品全体を見渡す客観的な視線。その両輪が、彼の本格復帰を後押ししている。