2000年代中盤の相武紗季は、『がんばっていきまっしょい』(2005年)や『アテンションプリーズ』(2006年)、『絶対彼氏〜完全無欠の恋人ロボット〜』(2008年)など、王道の青春・お仕事・恋愛ドラマで次々と主演・ヒロインを担当。「元気で健気な清純派」としてのパブリックイメージを確固たるものにしていきました。しかし、過密スケジュールの中で消費されるアイドルのような立場に対し、本人の内面には表現者としての葛藤が芽生えていたと伝えられています。
その転換点となった決定打が、2009年の月9ドラマ『ブザー・ビート〜崖っぷちのヒーロー〜』(フジテレビ系)で演じた七海菜月役です。主人公の恋人でありながら裏で浮気を繰り返し、主人公を精神的に追い詰める冷徹な悪女という、これまでのイメージを180度覆す役どころに挑戦しました。
放送当時、ネット掲示板や視聴者からは「相武紗季の裏表ある演技がリアルすぎて怖い」「清純派の面影が消え去った」と賛否両論の凄まじい反響が巻き起こりました。しかし、このリスクの高い挑戦こそが、彼女を「固定観念に縛られたヒロイン」から「人間の二面性をリアルに表現できる演技派女優」へと飛躍させる契機となったのです。後に挑んだ『僕のヤバイ妻』(2016年)での妖艶な愛人役など、凄みのあるサスペンス演技の基礎はこの時期に築かれました。