スイスが世界でも稀な「外国人を受け入れる安楽死の地」と呼ばれる最大の理由は、同国の刑法規定にあります。スイス刑法115条は「利己的な動機がない限り、自殺の教唆および幇助は不可罰である」と定めています。つまり、遺産目当てや金銭的利益などの私利私欲を動機としない限り、第三者が自死を手助けしても罪に問われないという法構造が1942年の法制定時から確立されているのです。
オランダやベルギー、カナダなど他の安楽死合法化国では、国民や一定期間以上の居住者に限定して制度を運用しています。対照的に、スイス刑法115条には居住資格や国籍に関する制限条項が存在しません。この法の枠組みに基づき、民間非営利団体が医療機関と連携しながら、国外からの希望者にも門戸を開放してきた経緯があります。
スイスの法学者や生命倫理の専門家は、個人の生と死に対する自己決定権を極めて重く位置づけています。耐え難い苦痛を伴う末期患者に対し、他国が選択肢を提供できない以上、人道的な見地から国外の希望者を排除しないという論理が根底に流れています。ただし、これは無条件の受け入れを意味するものではなく、厳しい医学的要件と手続きの厳格化が前提となっています。