実は、昔から地下ホームにトイレがなかったわけではない。かつての下り線ホーム端には、乗客用の汲み取り式トイレが設置されていた時代が存在した。しかし、現在その施設は重々しい扉で施錠され、完全な閉鎖状態となっている。
なぜ地下ホームのトイレは廃止されたのか。その裏には、過酷な現場環境と現代の公共交通インフラが抱える維持管理の課題がある。地底70メートルという特殊な立地において、汚水の処理や汲み取り作業を行うことは極めて困難を極めた。水圧の問題や定期的な清掃作業員の安全確保、臭気対策など、地上施設とは比較にならないコストと労力がかかっていたのだ。
加えて、無人駅化に伴う管理の目が行き届きにくくなったことも閉鎖を後押しした。老朽化が進んだ地下トイレを存続させるよりも、地上駅舎の衛生設備を最新化・集約化する判断が下されたのは当然の帰結と言える。暗がりの中にひっそりと残る旧トイレの鉄扉は、昭和の鉄道史とインフラ維持の過酷さを物語る無言の遺構となっている。