清掃を欠かさない家庭であっても悪臭が発生する最大の要因は、臭いの発生源が「日常のブラッシングでは届かない配管内部」にあるためだ。洗面所の排水溝から漂う悪臭は、大別して「雑菌が有機物を分解する発酵・腐敗臭」と「下水道本管から吹き上がってくる下水ガス」の2種類に分類される。
まず、ドブ臭い原因となるのは、ヘアキャッチャーを通り抜けた抜け毛に、皮脂汚れ、石鹸カス、歯磨き粉、整髪料、手洗い用オイルなどが幾重にも絡み合って形成される「バイオフィルム(ヘドロ)」である。管内は常に適度な湿度と温度が保たれているため、雑菌(モラクセラ菌や嫌気性バクテリアなど)にとって格好の増殖環境となる。これらが有機物を分解する過程で、メチルメルカプタンや硫化水素といった強烈な悪臭成分を放ち続けるのだ。
もう一つの決定的な要因が、下水臭の逆流防止を担う「排水トラップの封水切れ」である。通常、洗面台下の配管はS字やP字に湾曲しており、そのカーブ部分に常に一定量の水(封水=ふうすい)が溜まる構造になっている。この水が物理的な「フタ」の役割を果たし、下水管から上がってくる有毒ガスや異臭、害虫の侵入を遮断している。
しかし、何らかの理由でこの封水が消失すると、下水管と室内がダイレクトにつながり、強烈な下水臭が室内に充満することになる。日本水道協会の技術資料等でも指摘されている通り、封水切れが起きるパターンには主に以下の4つのメカニズムが存在する。
- 蒸発(長期不在):旅行や出張などで1〜2週間以上水を流さないと、トラップ内の水が自然蒸発してフタが消滅する。
- 自己サイホン現象:洗面ボウルに溜めた大量の水を一気に流した際、勢い余ってトラップ内の封水まで一緒に引き込まれて流れ去ってしまう現象。
- 誘導サイホン現象:マンションなどの集合住宅で、上層階の住人が一気に排水した際、縦管内の気圧が急激に下がり、自室のトラップ内の水が引っ張られて吸い出される現象。
- 毛細管現象:ヘアキャッチャーのぬめり取りを怠り、排水トラップ内部まで長い髪の毛が垂れ下がって引っかかっていると、毛髪がスポンジのように水を吸い上げ、排水管の奥へと少しずつ封水を排出してしまう現象。
「毎日掃除しているのに臭う」というケースでは、この毛細管現象による封水切れや、トラップのさらに奥深くにある排水管のヘドロ除去ができていないケースが圧倒的多数を占めている。