草壁メイという少女に生命を吹き込んだのは、声優の坂本千夏だ。彼女の演技は、プロの声優が演じる子ども役の基準を根底から覆したと言っても過言ではない。
オーディションの現場において、宮﨑監督が求めたのは「上手な芝居」ではなく「生命の塊」だった。坂本は、スタジオのマイク前でじっと立って演じるのではなく、実際に走り回り、息を切らし、泣きじゃくるような身体性を声に乗せた。トトロのお腹の上で飛び跳ねる際の笑い声や、サツキと大げんかしたときの喉の奥から絞り出すような怒声は、演技の枠を超えた生々しさを放つ。
「メイ、怒った!」という短いひと言ですら、唇を尖らせて全身を強張らせる少女の姿がありありと浮かび上がる。坂本の圧倒的な表現力があったからこそ、草壁メイは半世紀近くにわたり日本のアニメーション史に燦然と輝くキャラクターであり続けている。