映画『火垂るの墓』において、清太と節子の平和な日常を瞬時に破滅へと追いやるのが、不気味な重低音とともに現れる米軍のB29戦略爆撃機「スーパーフォートレス(超要塞)」です。けたたましい空襲警報が鳴り響く中、神戸市上空へと滑り込んでくる銀翼の巨体は、当時の日本の軍用機とは比較にならない圧倒的なテクノロジーの差を見せつけます。
劇中の空襲シーンを詳細に解説すると、高畑勲監督はあえてB29を「怪獣」や「悪魔」のような誇張されたデザインではなく、冷徹な機械の塊として淡々と描いています。高度数千メートルの空を悠然と編隊飛行し、地上を見下ろすように爆撃を行うその姿は、逃げ惑う清太や節子たち市民にとって、抗う術のない絶対的な暴力そのものでした。
作中で描かれた爆撃は、1945年6月5日の神戸大空襲がモデルとなっています。この日、米軍は御影や灘といった住宅街を主要な標的とし、早朝から大編隊を送り込みました。映画冒頭の抜けるような青空と、直後に降り注ぐ黒煙のコントラストは、突然日常が地獄へと転落した当時の空気感を完璧に捉えています。