特高警察や司法省が残した膨大な『不敬事件ニ関スル調査記』には、現代の感覚からは信じがたい些細な理由での検挙事例が無数に記録されています。
代表的な摘発事例の類型:
① 居酒屋や路上での酒乱・泥酔放言
屋台で酒に酔った労働者が「今の世の中が悪いのは上がしっかりしていないからだ」と叫び、近くにいた巡査や店主の通報によって即座に連行されたケース。素面に戻った後に平謝りしても許されず、起訴猶予や実刑判決を受けています。
② 公衆便所や駅待合室の「不敬罪落書き記録」
面と向かって言えない本音の捌け口となったのが、駅や公園の公衆便所でした。木炭やチョークで「天皇裕仁ハ大馬鹿者」「早く戦争を止めろ」などと走り書きされた記録が警察資料に多数添付されています。特高警察は筆跡鑑定や張り込みを行い、犯人の割り出しに血道を上げました。
③ 紙幣・硬貨の毀損と御真影の粗末な扱い
肖像や皇室のシンボルが印刷された印刷物を汚損する行為も厳しく処罰されました。硬貨の御紋章にいたずら彫りを入れたり、学校で火災が起きた際に天皇の写真(御真影)の搬出をためらって避難した校長が自殺に追い込まれたりするほど、狂信的な空気が醸成されていました。