キジのオスが発する「ケーン!」という金属音のような鳴き声は、野鳥の鳴き声の中でも極めて特異な存在感を放ちます。キジの鳴き声ケーンの意味を一言で表すならば、それは「ここは俺の縄張りだ」という強い領有権の主張であり、同時に周囲のメスに向けた自己アピールです。繁殖期を迎える毎年3月から7月頃にかけて、オスのテストステロン(男性ホルモン)分泌量が急増し、この誇示行動が頻発するようになります。
鳴き声の直後にほぼ例外なく発生するのが、両翼を激しく体に打ち付ける「バタバタバタッ」という激しい羽ばたき音です。この一連の動作は古来、キジの母衣打ちの習性(ほろうち / ほろうち行動)と呼ばれ、平安時代の文献や和歌にも頻繁に記録されてきました。母衣打ちによって生じる低周波の羽音は、草むらで見通しが利かない平野部において、数十メートル先まで物理的な振動と音を届かせる役割を果たしています。
キジが鳴く理由と心理を観察すると、オスは単に無目的に鳴いているわけではありません。縄張り内にライバルとなる他のオスが侵入してきた際や、自分の存在を周囲のメスへ誇示したいという明確な動機が存在します。喉を大きく膨らませて放つ高音の「声」と、空気そのものを震わせる「羽音」の2段構えによって、視界の悪い藪(やぶ)の中でも圧倒的な存在感を知らしめているのです。