音楽的な観点から本作を紐解くと、桑田佳祐のコンポーザーおよびボーカリストとしての驚異的な才能が浮き彫りになります。本作のバッキングトラックには楽器の音がほとんど使われず、桑田自身の声を何重にもオーバーダビング(多重録音)したア・カペラ/ドゥーワップスタイルが採用されています。
桑田が敬愛するザ・ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンを彷彿とさせる緻密なコーラスアレンジは圧巻の一言です。ベースラインを担当する低音ボイスから、繊細なファルセット、美しい響きを生み出すミドルレンジのハーモニーまで、すべて桑田一人の声で構成されています。
楽曲のコード進行は、クラシックなドゥーワップの循環コード(I - vi - IV - V)をベースにしながらも、随所にテンションコードやジャズの語法を織り交ぜた洗練された設計です。この圧倒的なハーモニーの完成度と声の質感は、同じくア・カペラやドゥーワップに造詣が深い山下達郎をはじめとする同時代のトップミュージシャンたちからも絶大な称賛を受けました。