立川談志を語る上で避けて通れないのが、古典落語の金字塔『芝浜』である。勝手気ままな革財布の拾い主である魚屋の勝と、健気な女房の情愛を描いたこの噺。談志の演じる『芝浜』は、時代とともに深化を遂げた。単なる人情噺の枠を飛び越え、男の矜持、夫婦の揺れ動く心理、そして人間の業そのものを描き出す濃密な文学世界へと昇華させた。
かつて『笑点』を立ち上げ、テレビという巨大メディアで落語のお茶の間化を達成した男が、晩年は高座での一瞬の瞬きや間(ま)に命を削った。現在、YouTubeで手軽に彼の名演の断片を視聴できる環境が整い、若いクリエイターたちが「完璧な間取り」や「言葉のナイフのようなキレ」に感嘆の声を上げる。テレビメディアの開拓者でありながら、表現の極限を舞台の上に求めた姿勢は、メディアが変わった今も色あせない。