人面魚ブームの発端は1990年(平成2年)、写真週刊誌『FRIDAY』が掲載した1枚のスクープ写真だった。山形県鶴岡市の大祈願所・善宝寺にある「貝喰池」で撮影されたその魚は、水面から顔を覗かせると、まるで額にシワを寄せた人間の男性のような風貌をしていたのだ。
報道を契機に全国ネットのテレビ情報番組が現地から連日生中継を敢行。人口10万人規模の鶴岡市に、全国から1日数万人規模の観光客が殺到する事態となった。門前町には人面魚キーホルダーや菓子などの記念品が並び、周辺道路は大渋滞を記録。過熱する取材攻勢と観光客の波は、静寂を旨とする寺院の日常を一変させた。
なぜここまで過熱したのか。当時はバブル経済の絶頂期から崩壊期へと移行する過渡期であり、世紀末へ向けたオカルト・ミステリーへの関心が世間全体で高まっていた。加えて、テレビカメラ越しに水面の波紋から「人間の顔」がヌッと浮かび上がるインパクト抜群の映像が、国民の好奇心を強烈に刺激したことが大きな要因である。