シュー生地をベースにしたフランス菓子は、シュークリームだけにとどまりません。洋菓子の歴史を知る上で欠かせない「ファミリー」が存在します。その筆頭が、チョコレートが艶やかにコーティングされたエクレアです。
エクレアの正式名称は「エクレール・オ・ショコラ(éclair au chocolat)」。この「エクレール(éclair)」は、フランス語で稲妻・雷光を意味します。なぜ細長いシュー菓子が稲妻と呼ばれるようになったのかについては、主に3つの有力な説が語り継がれています。
- 一口で素早く食べる説: 中のクリームが飛び出したり生地から垂れたりしないよう、稲妻が走るような素早さで口に放り込む必要があるため。
- 表面のひび割れ説: 焼き上がった生地の表面に入る亀裂が、夜空を走る稲光の稲妻模様に似ているため。
- 艶めく光沢説: 上面に塗られたフォンダン(糖衣)やチョコレートの艶やかな光沢が、稲妻の閃光のようにキラリと反射するため。
いずれの説にせよ、エクレアの生地はシュークリームと完全に同一の「パート・ア・シュー」です。絞り出す形状を丸型から棒状に変え、焼き上げた後にフォンダンを纏わせることで、全く異なる食感と表情を持つ名作へと昇華させました。
さらに視野を広げると、ヨーロッパにはシュー生地から派生した多彩な伝統菓子が息づいています。
- パリ・ブレスト(Paris-Brest): 1891年に開催された世界最古の自転車ロードレース「パリ・ブレスト・パリ」を記念して考案された、自転車の車輪を模したリング状のシュー菓子。中には濃厚なプラリネクリームがサンドされます。
- サントノレ(Saint-Honoré): パイ生地の縁に小さなカラメルがけのシューを並べ、中央に特製のシブーストクリームを絞った、フランス菓子の守護聖人の名を冠する豪奢な伝統菓子。
- ルリジューズ(Religieuse): 大小2つの丸いシューを重ね、首回りにバタークリームのフリルを絞ったお菓子。「修道女」という意味を持ち、その姿が修道服を着た修道女に似ていることから名付けられました。
このように、キャベツを意味するひとつの生地が、形とクリームの組み合わせを変えることで、幾重もの壮大な洋菓子文化のタペストリーを織りなしています。