開湯の起源は飛鳥時代、狩野三郎行広という武士が矢で射抜いた大鹿を追って山中に入った際、湧き出る白濁の湯で傷を癒やしている鹿を発見したという伝説に由来します。「鹿の湯」の名はこの伝承に端を発し、古くから傷病を治癒する霊泉として崇められてきました。
江戸時代には温泉番付において「東の前頭筆頭」に格付けされ、松尾芭蕉が『おくのほそ道』の旅の途中で殺生石とともに立ち寄った記録も残されています。鹿の湯が1300年もの間、多くの人々を惹きつけてやまない理由は、単なるノスタルジーではなく、「大地から湧き出すエネルギーをそのまま身体に取り込む」という湯治本来の純粋性が一切損なわれていない点にあります。
浴舎は昭和初期に再建された木造トタン葺きで、板張りの床には梁や柱が剥き出しになった重厚な空間が広がります。カランやシャワーといった現代的な給湯設備は一切排除され、川のせせらぎと湯口から注がれる源泉の音だけが響く空間は、訪れる者に日常の喧騒を忘れさせ、心身を研ぎ澄ます特別な時間を提供しています。