普段何気なく目にする「すし」の漢字表記には、主に「鮨」「鮓」「寿司」の3種類が存在します。これらは単なる表記の揺れではなく、それぞれに明確な語源と歴史的な背景が存在しています。
最も古い起源を持つのが「鮓」という漢字です。中国の古代辞書『説文解字』などによれば、魚に「酢(酸っぱい)」に通じる旁(つくり)を組み合わせた文字で、塩や米で魚を発酵させて酸味を生じさせた保存食を指していました。伝統的ななれずしや押し寿司を扱う老舗にこの表記が多く見られるのは、発祥への敬意が込められているためです。
一方の「鮨」は、魚に「旨い」という旁を当てた文字で、古代中国では魚を塩漬けにして発酵させた魚醤のような保存食品を意味していました。時を経て魚全般の加工食品を指すようになり、日本では江戸前寿司の職人たちが「魚の旨さを極める」という誇りを込めて好んで使うようになりました。
現在最も広く普及している「寿司」は、江戸時代末期に誕生した当て字です。「寿(ことぶき)を司(つかさど)る」という縁起の良い意味を重ね、朝廷や武家への献上品、あるいは婚礼や祝いの席にふさわしいハレの日の食べ物として定着しました。今日のメニュー表や看板で「寿司」が主流となっているのは、この縁起担ぎが庶民の間で爆発的に受け入れられた結果です。