日本の鰻文化を語る上で欠かせないのが、関東風と関西風の焼き方の違いです。この東西の差異は、単なる好みの問題ではなく、歴史的背景と魚の身質の変化に合わせた合理的な進化の結果です。
関東風は「背開き」にして白焼きにした後、じっくりと「蒸し」を入れて余分な脂を落とし、最後にタレをつけて本焼きします。江戸の武士文化において「切腹」を連想させる腹開きを忌避したという歴史的通説に加え、関東近郊で獲れた脂の強い鰻をふんわりと柔らかく仕上げるために蒸し工程が定着しました。口の中でとろけるようなスフレ状の食感が最大の特徴です。
対する関西風は「腹開き」で、蒸しを一切入れずに備長炭の強火で一気に焼き上げる「地焼き」が基本です。商人の街・大阪で「腹を割って話す」ことを尊んだ文化背景とともに、鰻本来の弾力と皮目の香ばしさを際立たせる手法が確立されました。表面はカリッとクリスピーでありながら、中はジューシーな脂の旨味が凝縮されています。
そして、名店の命とも言えるのが鰻の蒲焼き秘伝ダレの存在です。老舗では創業以来、数十万匹もの鰻をくぐらせてきたタレが継ぎ足しで使用されています。鰻をタレに浸して焼く過程で、魚体から溶け出したコラーゲン、ゼラチン質、旨味成分(イノシン酸)がタレの中に溶け込みます。火入れによってみりんの糖分と醤油のアミノ酸がメイラード反応を起こし、新品の調味料では決して出せない複雑な照りと深みが形成されるのです。