『五月の蝿』を語る上で欠かせないのが、シングル発売時に両A面として対に配置された『ラストバージン』の存在だ。多幸感に溢れ、永遠の愛をまっすぐに歌い上げる『ラストバージン』と、容赦ない憎悪をぶつける『五月の蝿』。この2曲が同時に提示されたという事実は、当時の音楽界に巨大なインパクトを与えた。
この二面性は、収録アルバム『×と〇と罪と』においても中核をなすテーマとなっている。人間の中に同居する「聖」と「邪」、あるいは「無償の愛」と「破滅的な執着」。野田洋次郎は人間の感情の両極端を包み隠さず吐き出すことで、誰もが目を背けたくなる心の闇を鮮やかに作品化してみせた。
光が強ければ強いほど影もまた濃くなるように、『ラストバージン』の美しさがあるからこそ、『五月の蝿』の持つ深淵な闇がよりいっそうのリアリティをもって聴き手に迫るのだ。