光市母子殺害事件の裁判において、世論の反発が頂点に達したのが2007年の広島高裁における差し戻し審でした。一審・二審で事実関係をほぼ認め「死刑の回避」を求めていた弁護方針から一転、新たに結成された大弁護団は、殺意の全面否認と傷害致死罪の適用を主張したのです。
特にワイドショーや週刊誌でセンセーショナルに報じられたのが、いわゆる「ドラえもん主張」や「魔界の儀式」とされる供述内容でした。弁護側が法廷で提示した被告人の心理状態・行動理由は、以下のようなものでした。
- 母親への行為:「甘えたいという欲求から抱きしめたところ、抵抗されたため首を圧迫してしまった。死亡させた認識はなく、蘇生させるために性的な接触(姦淫)を試みた」
- 長女(生後11カ月)への行為:「泣き止まないため、首にリボンを結べばドラえもんのように願いを叶えて泣き止んでくれると思った。押し入れに入れたのはドラえもんのポケットのような安全な場所に隠したつもりだった」
- 死生観の未熟さ:「魔界からのメッセージを受け取っていた」「死ねば生き返ると信じていた」といったファンタジー的思考による行動であったとする主張
世間からは「荒唐無稽な言い逃れ」「遺族への冒涜」と激しい批判を浴びましたが、光市裁判の弁護側主張の真相は、被告人の生育環境や精神鑑定結果に基づき、「重度の精神的未熟さや解離状態にあり、確定的な殺意や強姦目的は存在しなかった」ことを法理的に立証し、無期懲役判決を維持するための防御活動でした。
しかし、検察側はこれらを「自己保身のための明白な虚偽供述」と徹底的に弾劾。裁判所も最終的に弁護側の主張をことごとく退け、冷酷かつ計算された犯行であると認定しました。