木臼の寿命は手入れ次第で50年以上持ちますが、間違った知識による自己流のメンテナンスで、わずか1シーズンで再起不能にしてしまうケースが後を絶ちません。木材工学と現場の職人の声から、ネット上で散見される致命的な誤解を是正します。
新品の木臼、あるいは長期間保管されていた臼を使用する前には、必ずアク抜きと浸水作業が必要です。木臼は乾燥すると収縮して微細な隙間が生じます。使用する前日〜2日前にぬるま湯を臼いっぱいに張り、木肌に水分を含ませて膨張させることで、ひび割れを防ぎ、木のアク(渋み)が餅に移るのを防ぎます。この工程を怠ると、搗いている最中に衝撃で木が裂ける大事故につながります。
そして、最も多くの人が犯してしまう重大な過ちが「日光消毒のための天日干し」です。「カビを防ぐために直射日光に当ててカラカラに乾かそう」という判断は、木臼にとって死刑宣告に等しい行為です。急激な表面乾燥は外側と内側の収縮差を生み、激しい「ひび割れ」を引き起こします。同様に、エアコンの風が直接当たる場所や床暖房の上での乾燥も厳禁です。
洗浄時は、台所用合成洗剤を使用してはなりません。洗剤の界面活性剤が木の導管深くまで浸透し、すすぎきれずに残留して次回の餅に臭いや成分が移ってしまいます。使用直後に熱い湯を注ぎ、亀の子束子(たわし)で木目に沿って力強く擦り洗いを行い、でんぷん質を完全に落とし切るのが鉄則です。
万が一、保管中に乾燥による小さなひび割れが生じた場合は、水を含ませることで木が膨らみ自然に塞がることもあります。しかし、深さ数センチに及ぶ亀裂や外周のタガ(金属や竹の締め具)が緩んだ場合は、無理にDIYでパテ埋めなどをせず、専門の木工職人に依頼して削り直しやタガの締め直し修理を依頼するのが最も安全です。