野球賭博が違法賭博の中でも極めて悪質とみなされる理由は、その精巧な集金システムと反社会的勢力の資金源に直結している点にあります。
一般的に、野球賭博は「胴元」「ハンデ師」「客(張り手)」の3者によって構成されます。実力差がある2チームの対戦において、単純な勝敗予想ではオッズが成立しません。そこで登場するのが、対戦カードごとに得点の有利不利を割り振る「ハンデ師」と呼ばれる専門の職種です。
例えば、「巨人対阪神」の試合で巨人に「0.5点のハンデ」を背負わせる(巨人が1点差以上で勝たなければ的中にならない)といった独自の基準値を設定します。ハンデ師は暴力団組織や闇の賭博グループに専属し、天候、先発投手の調子、チームの疲労度などを緻密に計算して数字を弾き出します。
客が勝っても負けても、胴元側は賭け金総額から「寺銭(テラセン)」と呼ばれる手数料(通常10%程度)を確実に差し引くため、長期的に見れば胴元が100%利益を上げる構造になっています。刑法上、賭けを行った選手側は単純賭博罪(刑法185条)または常習賭博罪(刑法186条1項)に問われ、場所を提供し組織した胴元側は賭博開帳図利罪(刑法186条2項)という重罪(3月以上5年以下の懲役)が適用されます。
この仕組みの中で、現役選手が借金を抱えることは致命的な危険を意味します。返済に行き詰まった選手に対し、胴元が「次の登板で初球をわざと甘く入れろ」「1点取られてくれれば借金を帳消しにしてやる」と要求すれば、賭博は瞬時に「八百長(敗退行為)」へと変貌するからです。巨人の事件において八百長そのものは確認されなかったものの、NPBが電光石火の厳罰を下したのは、この最悪のシナリオを未然に遮断するためでした。