行動経済学や心理学には、「コンコルド効果(サンクコスト効果)」という概念が存在します。これまでに投資した時間、金銭、労力に対する執着から、損失が拡大することが明白であるにもかかわらず、途中でプロジェクトを中止できなくなる心理的罠を指します。とりわけ登山におけるエベレストでは、頂上が目と鼻の先に見えることで判断が狂い、下山のタイムリミットを破ってデスゾーンで命を落とす「サミット・フィーバー(登頂熱)」が最大の死因となってきました。
2014年のイッテQ登山部が直面した状況は、まさにこの心理的罠が最大級に働くシチュエーションでした。数千万円単位の遠征予算、何ヶ月にもわたる過酷なトレーニング、日本中の視聴者からの凄まじい期待、そしてゴールデンタイムの特番編成。あらゆる社会的プレッシャーが「何としても登れ」と背中を押す環境下において、総合演出やガイド陣、そしてイモト氏本人が下したのは、完全なる撤退でした。
ビジネスや実社会においても、「損切り」や「計画の中止」を決断することは、前進すること以上に強烈なリーダーシップと勇気を必要とします。イモト氏のエベレスト断念劇は、単なるドキュメンタリー番組の挫折ではなく、「生きて帰ることこそが登山における唯一絶対の成功である」という登山の原点を示した、極めて価値の高い危機管理の教訓として語り継がれるべきものです。