背景美術を手がけるスタジオの現場取材や作画監督の解説において、共通して指摘される現象があります。それが、木の描き方初心者が必ず一度は陥る「ブロッコリー病」と呼ばれる記号化の罠です。初心者が描く木が平面的でのっぺりしてしまう最大の理由は、人間の脳が持つ「葉の集合体」という認知の思い込みにあります。
美術解剖学や認知心理学の観点から分析すると、初心者は「木=幹の上に緑色のモコモコが乗っている」「緑色のモコモコの中に無数の葉っぱがある」と頭の中で言語化し、その記号をキャンバスに再現しようとします。その結果、輪郭線を過剰に細かくギザギザに描いたり、均一な大きさの葉っぱパターンを画面全体にスタンプのように散らしてしまいます。これが、まさに木の描き方下手に見える理由の根本原因です。
一方、プロのクリエイターは木を「葉の集合」としては見ていません。まずは巨大な「不規則な球体の塊(ボリューム)」として知覚し、太陽光が当たったときに生じる「明部」「中間調」「暗部」、さらに地面や大気からの「照り返し(環境光)」を計算します。細部のテクスチャを描き込む前に、遠目で見ても一瞬で丸みが伝わる巨大な明暗のグラデーションを確立しているからこそ、プロの木は圧倒的な立体感と空気感を宿すのです。